「五感で感じる住まい」
■ 家づくりの産地より。
木の温かみや肌触り、土壁の豊かな表情、障子に揺れ動く陰影、土間のひんやりとした空気、格子窓より見え隠れする光や心地よい風、畳の香りなど、昔ながらの住まいには、普段の生活の中に五感を震わせる小さな瞬間がいくつも散りばめられています。
しかし、住まいづくりが産業化され工場で大量量産されるようになってくると、木はプリント合板に、土壁はサイディングやビニルクロス、畳はスタイロ畳に、そして室内環境はエアコンによってコントロールされるようになってきました。
一昔前までは、裏山や近くで生産された素材をそれぞれ専門の技術を持つ職人さんたちが工夫しながら加工し、家をつくるということが当たり前のことでした。しかしそれがいつの間にか、人の手を離れ商品化され、見た目や生産効率、経済が優先されるようになってしまいました。さらに住宅を生産する側も頭の中だけで考え、実物を知ることなくメーカーのカタログから商品を選び、ネットで注文という状態に陥ってはいないでしょうか。
人工的な環境の中で生活するようになり、また携帯やPCに向かう時間も多くなり、私たちはリアルな感覚を失いつつあるのではないでしょうか。本物の素材や手づくりの一品モノには質感のない量産部品には真似できない深みある美しさや、五感に伝わる存在感があります。そして規格化されていない分、面白くその使い道にはさまざまな可能性があるのです。
今でも昔ながらの技術や知恵は、脈々と受け継がれているのです。しかし、それらを実際の設計に取り入れることは意外と難しい、先ず何処を探せばいいのかわからない、ホンモノの素材や伝統的な技術を扱う産業は、細々と家族で営まれていたり、小さな町工場などである場合が多く、自らの足で探さないことにはなかなか情報が得られないのです。
私が参加している「NPО家づくりの会」では、森林組合や製材所、採石場、町場の家具、左官、建具屋など、生産現場や工場を訪れる機会が度々あります。一人ではなかなか訪れることが出来ない生産現場も、建築仲間が集まればいろいろな意見が飛び交い、様々な発見に繋がります。そこで扱われているモノはカタログに載っていて一般流通している規格品ではありません。設計に生かすには、産地の人たちや職人さんたちと知恵を出し合い、使い方を考えながら進めてゆきます。
生産の現場を訪ね、手に取り感触を確かめ、それで何がつくれるかその技術を今の住まいにどう生かせるか考えてみる。そして実際に使ってみる。そんな積み重ねが、住まいづくりの幅を広げてゆくのだと思います。そして脈々と伝えられてきたホンモノの技術や素材は、五感を震わせ住まいに豊かさを与えてくれるのです。
新健ハウジング記事より