木の温かみや肌触り、土壁の豊かな表情、障子に揺れ動く陰影、土間のひんやりとした空気、格子窓より見え隠れする光や心地よい風、畳の香りなど、日本の伝統的な住まいには、普段の生活の中に五感を震わせる小さな瞬間がいくつも散りばめられている。
しかし、住まいづくりが産業化され工場で大量量産されるようになってくると、木はプリント合板に、土壁はサイディングやビニルクロス、畳はスタイロ畳に、そして室内環境はエアコンによってコントロールされるようになってきた。
一昔前までは、裏山や近くで生産された素材をそれぞれ専門の技術を持つ職人さんたちが工夫しながら加工し、家をつくるということが当たり前のことだった。
それがいつの間にか、人の手を離れ商品化され、見た目や生産効率、経済が優先されるようになってしまった。さらに設計する側も頭の中だけで考え、実物を知ることなくメーカーのカタログから商品を選び、ネットで注文という状態に陥ってはいないだろうか。
人工的な環境の中で生活するようになり、また携帯やPCに向かう時間も多くなり、私たちはリアルな感覚を失いつつあるのではないだろうか。本物の素材や手づくりの一品モノには質感のない量産部品には真似できない深みある美しさや、五感に伝わる存在感がある。そして規格化されていない分、面白くその使い道にはさまざまな可能性があるのだ。
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新建ハウジングプラスワン9月号(新建新聞社)